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令和5年度実証実験結果レポート―記録時間を約6割削減―

2024/03/05

当社は今年度、全国6自治体において、児童相談所や児童相談担当部署にAiCANアプリを試験導入し、効果検証を行う実証実験を実施しました。
その結果、すべての自治体において「業務効率化」「職員間のコミュニケーションの円滑化」の効果が認められました。
本コラムでは、実証実験の概要と結果を一部抜粋してご報告いたします。

実証実験の概要

課題

令和4年度の児童虐待相談対応件数は219,170 件(速報値)であり、この20年でおよそ20倍に増大しているにもかかわらず、対応にあたる職員(児童福祉司)の数は5,800人と5倍程度しか増えておらず、マンパワーが圧倒的に不足しています。しかも、その職員の半分以上が経験3年未満と言われています。専門性が高く求められる児童相談業務において、経験の浅い職員が半分以上を占める職場で、増大する対応件数に対応し、子どもの安全に資するには、業務のデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)が不可欠です。そしてそれは、単なるICTツールの導入ではなく、現場の業務フローを理解した上で、業務自体を改善するDXである必要があります。

児童福祉法に基づき児童虐待対応を行っている機関には、児童相談所のほか、全基礎自治体の児童相談担当部署も含まれます。業務においては、家庭や学校等の関係機関を訪問し、子どもや保護者、関係者から話を聞くなど、機微な個人情報を取り扱うことになります。しかし、そのような業務を遂行する上で、以下3点の課題があげられます。

課題①:機微な個人情報を所外から入力・閲覧できるようなツールがなく、オフィスに戻らないと記録を書いたり閲覧したりできない
課題②:関係者と情報共有や調整を行うツールが、対面、または電話にほぼ限られている
課題③:迅速かつ適切な虐待の重症度評価を行うため標準的な調査やアセスメントを行う必要があるが、そのようなツールが既存の児童相談システムにほとんど実装されていない

 これらの課題が職員の負担を招いているほか、迅速かつ適切な意思決定をする妨げともなっていることから、早急な解決が望まれています。

目的

前述の課題のうち、①②を今年度の主な焦点とし、ICTツールの導入により「業務効率化」「情報共有の円滑化」が実現されるか検証することを目的としました。

課題③については組織内での合意形成を含めた時間をかけた取り組みが必要となるため、まずはツールが「判断材料の充実」に寄与するかを、一部の自治体において検証しました。

対象自治体

6自治体(児童相談所設置自治体3ヶ所、市区町村3ヶ所)

期間

2023年6月〜2024年2月(開始時期は6月〜8月、自治体によって異なる)

方法

各自治体の児童相談所や児童相談担当部署の職員様にタブレット端末を提供し、業務支援アプリ「AiCAN」を用いて相談受付、調査、アセスメント、調査記録の作成、チャットによる連絡等の業務を行っていただきました。
「初期調査」「面接」「会議」を主な対象場面としましたが、それ以外にも業務全般でご利用いただきました。

結果(一部抜粋)

約半年間の利用後、2023年12月〜2024年1月にかけてアプリ導入の効果を測定するユーザーアンケートを実施しました。

サマリー

  • 導入前と比較して、面接の記録作成時間、記録の登録までの日数とも、約6割短縮した効果が報告されました。
  • 回答者の4割が「今まで時間がなくできなかった、支援に関する業務に充てられる時間が増えた」と回答していました。具体的に増加した支援内容としては、「家庭や関係機関への電話」「ケースについて一人で考える時間」「ケースについて職員間で話す時間」が多く挙げられました。

(1)業務効率化

AiCANアプリの主な利用場面となる「初期調査」「面接」「会議」の前後において、準備や記録作成、記録の登録までにかかる時間がアプリ導入前後でどの程度変化したかを尋ねました。その結果、もっとも効果の大きかった面接後の記録作成については、作業時間が60.7%短縮されたことがわかりました。

それ以外の事務作業についても2〜5割の時間短縮効果がみられ、これまで業務時間を圧迫していた記録作成等の負担が軽減されたことがうかがえました。

ユーザーの声

「ノートへの記録が減少し、ノートからの文字起こし作業が減った。」

「打ち込んだ記録を転用できるため、記録に割く時間が大幅に減った。移動中に確認できるため、移動時間も効率的に活用できた。」

「家庭支援では通院や各種手続きに同行することが多くある。その待ち時間や移動時間に記録の入力をすることで、時間を有効活用出来るようになった。」

「以前まで家庭訪問、遠方の施設への出張が多く、所内で記録入力や書類作成する時間が少なかったため、訪問が終わった後、直帰出来ず職場へ戻ってパソコンで入力していた。心身共に負担は軽減した。」

(2)情報共有の円滑化

「初期調査」「面接」「会議」の各場面において、職員間の情報共有にかかる時間がアプリ導入前後でどの程度変化したかを尋ねました。その結果、初期調査場面での情報共有にかかる時間が52.6%、面接後の記録の登録までにかかる時間が64.5%短縮されたことがわかりました。

ユーザーの声

「福祉司から心理司への面接内容共有が楽になった。」

「チャットのほか、面接の記録を保存すると別の端末ですぐに内容を確認できるため、他方の面接内容を踏まえながら、実施中の面接で追加の質問をするなどの活用をしている。」

(管理職)「会議などで不在にせざるを得ない時も報告が適時受けられるので、業務効率が上がった。」

(3)判断材料の充実

迅速かつ的確な判断が求められる初期調査場面において、アプリの利用が調査内容の充実に役立ったかを尋ねました。その結果、「初期調査場面で得られる情報の量や質が向上した」69.1%、「初期調査場面での網羅的な情報収集に役立った」68.1%と、約7割の職員がアプリの効果を肯定的に評価していました。

ユーザーの声

「逐語的な聴取が可能となることに加えて、細かい表情や態度の変化も記録が容易になった。」

「質問ポイントを事前にまとめられることで質問項目が増えた。聞きたいことを逃さず聞くことができる。」

「アセスメント内容の抜けがないか確認できて、必要な情報をケースから引き出しやすくなった。」

(4)支援への影響

AiCANサービスは子ども・家庭と関わる職員の業務をサポートすることで、最終受益者である子どもの安全に資することを目的としています。実証実験中の取り組みが子どもへの支援に間接的に影響をもたらしたかを、補足的にアンケートでも尋ねました。その結果、回答者の44.2%が「AiCANの利用による業務の効率化によって、今まで時間がなくできなかった支援に関する業務に充てられる時間が増えた」と感じていることがわかりました。

増えたと感じる業務の内容としては、「家庭や関係機関への電話」「ケースについて個人で考える時間」「職員間でケースについて話す時間」が多く挙げられました。

時間をかける=支援の質とは一概に言えませんが、人材が不足している現場において、ICT活用によって事務作業の時間を短縮し、その分人間にしかできない業務に充てる時間が増えたことは、DXの第一歩と言えます。また、前述の「業務効率化」「情報共有の円滑化」「判断材料の充実」の効果が、ケースワークの質に良い影響をもたらしているとの声も多く聞かれました。

ユーザーの声

「関係機関への電話――所内で記録作成していた時間がそのまま各関係機関への連絡にあてられるようになった。」

「職員間でケースについて話す時間――週1回から2回程度に増えた。」

「SV・相談に充てる時間――できていたが時間外になりがちであったものが、時間内でおさまるようになった。」

「ケースについて個人で考える時間――ほとんどできていなかったが、週に1、2回程度、過去の記録を丁寧に読むことができた。」

「子どもとの面接で、子どもが話した言葉をそのまま記録したり、保護中の子どもの作品を撮影し添付できるため、保護者と子どもの様子をより詳細に共有でき、関係性の構築に役立ち、ケースワークが進めやすくなりました。」

まとめ

当社のAiCANサービスは、児童福祉現場での勤務経験のあるスタッフの知見や実感に加えて、ユーザー様の声を日々反映しながら、現場で役立てていただけるサービスを設計しています。今回の実証実験を通して、そのようなAiCANサービスによる児童相談業務の効率化、情報共有の円滑化の効果を、複数の自治体様において検証できました。単なる効率化だけでなく、浮いた時間を支援の充実に充てられた、支援の質が上がったという声をユーザー様からいただき、当社が実現したい子どもの安全という社会的インパクトにつながる成果を確認することができました。
今後さらにサービスを磨き込んでいき、業務負担を軽減しながら判断をサポートし支援を充実させる仕組みを、現場の皆様とともに作り上げてまいります。

今年度の実証実験にご協力いただいた自治体関係者の皆様に御礼申し上げます。

※本事業は中小企業庁の令和5年度「地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業補助金」の対象事業として採択され、補助を受けて実施されました。
関連リリース:
令和5年度「地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業補助金」に係る補助事業者として採択されました(2023年6月26日)

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