実証実験から本導入までの道のり——奈良市子どもセンターが選んだAiCANという一手【前編】

児童相談の現場では、日々多くの相談や通告が寄せられ、対応にあたる職員の業務量は決して少なくありません。面接や訪問に加えて、その内容を記録として残す作業にも相応の時間がかかり、限られた人員でどう業務を回していくかは、多くの児童相談所に共通する課題ではないでしょうか。
奈良市子どもセンターでは、そうした課題に向き合うため、AiCANの実証実験を経て本格導入に至りました。岡本課長補佐と、AiCANの導入・活用推進を中心となって進めた、藤澤様、中谷様に、導入の経緯から本格導入までの歩みを伺いました。
(取材日:令和8年9月24日 本記事の内容は取材時点のものです。)
■お話を伺った方
・奈良市子どもセンター 子ども家庭支援課 課長補佐 岡本 純一様
・同 子ども家庭支援課 主務 藤澤 翔也様
・同 子ども安心課 主務 中谷 壮貴様
■ 導入概要
・拠点名:奈良市子どもセンター(児童相談所、こども家庭センター)
・導入開始時期:令和8年7月
・導入形態:既存の児童相談システムとの並行利用
積み重ねてきた挑戦——本庁とともに歩んだDX推進
AiCAN導入前、どのような課題を感じていましたか。
岡本:児童相談の業務で、職員の業務負担はすごく大きいと感じていました。人と向き合う仕事なので、自分の都合で業務を組み立てるのが難しいんです。
例えば、面接が、夕方から夜にかかることもある。その上で、どんな面接をしたのかをしっかり記録に残さないといけないので面接後に残務が発生する。個人差はありますが、全体的に見て「業務負担」という課題は大きかったと思います。
AiCANの実証実験に至る前にも、DX化の検討を進めていたのですよね。
岡本:はい。児童相談業務のDX化は、AiCANの実証実験より前から、庁内で少しずつ検討を進めていました。本庁のDX推進部局が主導するという土壌もあったので、現場だけではなかなか進まなかったであろう部分も後押ししてもらえて、AiCANの実証もスムーズに始めることができたんです。
中谷:現場としても、以前から経過記録が溜まって業務を圧迫しているという課題は感じていました。そうした背景があったので、「やってみましょう」という前向きな流れが少しずつできていました。これまでの庁内の動きも、新しい取り組みに前向きな現場の雰囲気を後押ししていたと思います。
新しいやり方に、少しずつ慣れていく
実証実験を始めた当初、現場の反応はいかがでしたか。
中谷:本格導入のときも多少ありましたが、実証実験のときも「これ絶対使わなあかんの」みたいな声はありました。「慣れないことをする」ということへの不安感みたいなところがあったなと思います。
藤澤:面接にiPadを持ち込むことが、保護者やお子さんとの関係性にどう影響するかというのは、最初とても気になりましたね。また、長年紙とペンで記録を書いてきたので、「iPadに入力する」という新しいやり方への抵抗感を覚えている職員も少なからずいました。
実際、実証実験開始当初はなかなか使用頻度が上がりませんでした。AiCANさん(※AiCAN社のこと、以下同じ)の常駐サポートや研修、所内での働きかけをしていくうちに、1人2人と「使ってみたら良かったよ」という声が出てきて、そこから徐々に広まっていった印象です。
「横からの声かけ」が生んだ広がり
どのように活用を後押ししていったのでしょうか。
岡本:奈良市では全庁的に、各課に「DX推進リーダー」を置くという決まりがあります。実証実験のときも、各課のDX推進リーダーを中心としつつ、それぞれの係で1人ずつくらい推進してくれそうなメンバーを選んで、「推進メンバー」の役割をお願いしました。
中谷さんは、センター開設当初からずっとDX推進リーダーを担ってくれていて、藤澤さんも今、DX推進リーダーをやってくれています。
上から「使いなさい」という指示をするのではなく、同じ係の中で「こんな場面で助かったよ」「◯◯さんAiCAN持った?」という、日常の些細な声かけをより職員に近い推進メンバーからしてもらったことで、どんどん広がっていったのかなと思います。
藤澤:推進メンバーを「各係」に一人置いたのもポイントかなと思います。全体で一人だと「後で聞こう」「めんどうくさいからいいや」となってしまいがちですが、すぐ近くですっと聞ける体制だったので、広まりやすかったのかなと思います。
中谷:まず自分が「AiCANのプロ」になろうと使い倒して、どういう工夫をすれば使いやすくなるのか、楽しみながら深めていったところもありました。
あと、推進メンバーのチームを作って、その中でどう広めていけるか、まだ使っていない人にはどんなサポートが必要か、というところを検討できたのも大きかったです。AiCANさんの常駐サポートとは別で、推進メンバー主体の使い方研修をしてみたりと、日々ちょっとずつ伝えられるような工夫をしていました。
そこまでモチベーション高く取り組めたのはなぜですか。
藤澤:新しいことをするのが好きですし、実際に自分が記録作成に困っていたからですかね。実証実験でAiCANに初めて触ったとき感動しました。「こういうのが欲しいな」と思っていたものが、まさにあったという感じでした。長年、面接後の記録作成に苦労してきた分、もっと早くAiCANがあったらと思いましたね(笑)。

係によって違う、普及のペース
実証実験のときは、係によって活用の進み方に少し違いがあったそうですね。
岡本:はい。係によって業務の内容が違うので、浸透のペースにも違いがありました。
藤澤さんのいる係は、複数人で面接に入るのが基本なので、主担当・副担当という形で役割分担を明確にして、主担当が保護者と会話をして、副担当がAiCANへ記録を入力する、というやり方がしやすかったです。
一方、施設入所のお子さんとの面接が中心になる係は、一人で動くことが多いので、浸透のペースは少しゆっくりでした。あと、心理司の係では唯一のユーザーだった中谷さんが「心理司がどう活用できるか」という視点で独自に研究してくれていた、という状況でした。
中谷:保護者との面接に2人体制で入るとき、キーボードで記録を打つのは、保護者との関係がある程度作れているとかなり導入しやすいんです。ただ、関係を作っている最中だと、カチャカチャ入力するのに少し気を遣う場面もあります。あと、子どもと1対1になるとさらに工夫が必要になります。
iPadばかり見て顔を見ていない、というようなイメージにならないようにというのも意識していました。私自身は、Apple Pencilでの入力方法を工夫しましたし、今でもそれぞれの職員が自分に合った入力方法を試行錯誤しています。
実証実験を経て、本格導入の意思決定はスムーズだったのでしょうか。
岡本:現場の感覚として、このような仕組みは絶対に必要なものだという確証がありましたので、予算要求を迷うことはなかったです。本庁のDX推進部局の後押しもすごくいただけました。査定に対応していけるように、庁内各所のサポートをきちんと受けられたことも予算化につながったのかなと思います。
補助金を利用できることも予算化を大きく後押ししましたし、先ほどもあったように組織的にもDX推進しようという機運があったのも大きかったですね。
以上が前編です。「児童相談現場における業務負担」という課題に向き合うなかで積み重ねてきたDX推進の土壌、実証実験を経て芽生えた現場の実感、そして予算要求までの道のりをご紹介しました。
後編では、本格導入後の現場の変化、そして奈良市子どもセンターがAiCANを活用して目指していく今後について、さらに詳しくお伝えします。