記録時間の短縮から始まった現場改革——港区児童相談所が実感したAiCAN導入の効果【前編】

児童相談所の業務において、経過記録の作成は欠かせない重要な業務です。しかし、その記録作成に膨大な時間が費やされ、本来注力すべき支援や面接に十分な時間を割けないという課題は、多くの児童相談所に共通するものではないでしょうか。
港区児童相談所では、区のDX推進方針を背景に、AiCANの実証実験を経て本格導入に至りました。導入から約1年半が経過した今、現場にどのような変化が生まれているのか。港区児童相談所 佐藤係長と山本氏に、業務効率化を中心にお話を伺いました。
実証実験から本格導入へ——「AiCANロス」が物語る現場の手応え

AiCAN導入の経緯を教えてください。
佐藤係長:導入の背景には、やはり時間外勤務の多さがありました。他地域と同様に港区でも残業時間が多く、その大半が記録作成に費やされていたことが職員へのリサーチで明らかになっていたんです。記録を書く時間が少しでも短縮できれば、担当職員の負担軽減につながるのではないかという期待がありました。
一方で、タブレットを面接に持ち込むこと、保護者の前でキーボードを打つことに対する抵抗感も一部にはありました。「保護者の前で端末を出して怒られないか」「そもそもそういうことが妥当なのか」という声ですね。正直に言うと、私自身も「その場で記録が作成できるようになったところで、結局修正作業が発生するし、どれくらい効果があるのだろう」と思っていたところはありました。ケースワークは、昔ながらの職人芸的な文化もあり、AIやテクノロジーとは馴染まないんじゃないかと。
山本:ちょうど港区としてDXを推進していくタイミングだったこともあり、情報政策課とも相談のうえ、実証実験をスタートしました。ただ、記録の記載だけだったらAiCANでなくてもいいのではという話もあったので、どう進めるかは相談しながらでしたね。
最初は10台からスタートして、端末を専有で持つ4人と残り6人は端末を共有して使う形でした。正直、その段階では端末を専有で持つ4人しか使っていないような状況だったのですが、その後20台に増やしてSV(スーパーバイザー)にも端末を渡して専有にしたところから、一気に利用が広がりました。
佐藤係長:1人1台になることによる利用促進は、想像以上に大きかったですね。日本人的な譲り合いで、みんなで共有だと遠慮してしまうけれど、自分の端末となると「じゃあ使ってみようか」となる。触った職員からじわりじわりと「これいいよ」という声が広がっていきました。
実証実験での現場の反応はいかがでしたか?
佐藤係長:私自身、最初は「おもしろそうだからやってみればいいじゃん」、「タブレット使ってたらかっこいいし」というような感覚もあったんですが、実際の職員の反応を見ると本当に良くて。最初は懐疑的だった職員も、触ってみたり周囲の反応を見て「これはいいじゃん」となっていて、いつの間にかなくてはならないものになっていました。
また、当初懸念していた面談時の利用についても、保護者からの苦情は本当に少なくて。ノートに鉛筆でメモする従来のやり方についても、「尋問されている」と受け取る方もいれば、「真剣に聞いてメモしてくれている」と感じる方もいるはずですよね。タブレットだから印象が悪くなる、ということはないんだなと改めて思いました。
そういった状況だったので、実証実験が終わってAiCANの端末を回収するときには、「持っていくんですか?」、「いつ戻ってくるんですか?」と。「AiCANロス」という言葉が港区の現場から自然に生まれたほどです。
記録時間の圧縮がもたらした「動ける余白」

本格導入後、業務効率化の面でどのような変化がありましたか?
佐藤係長:記録作成の時間短縮は、想像以上の効果がありました。AiCANの機能全体から見ればメリットの一部なのかもしれませんが、現場の実感としてはそれだけでも十分すぎるくらいのインパクトです。
その場でタイムリーに記録が入力できる。まだ推敲は必要な状態だったとしても、面接直後にその場で記録があるということ自体がすごく助かるんです。これまでは、メモはしていてもなかなか清書ができていないという問題がありましたから。ノートだとその人のノートを見ないとわからないけれど、AiCANに入っていれば「ああ、こんな話をしたんだ」とわかる。そこだけでもすごく大きいですね。
また、記録の量自体がかなり増えました。後で整理しながら書いたものと違って、きれいにまとまってはいないこともあるのですが、情報がより網羅されるようになりました。記録を読めばそのケースで何が起きたのか、大概わかるようになりました。
山本:記録のためだけにずっと残業しているという人は明らかに減りましたね。遅い時間まで電話対応で残るということはありますが、記録のためだけにひたすら残っているという人は少なくなっています。立ち上がりが早いので、自席でもAiCANの方で記録を打っている職員もいます。自席のスペースが限られているので、パソコンを開くよりAiCANを開いた方が楽という人もいますね。
佐藤係長:経過記録の作成に費やしていた時間が圧縮されたことで、「今日もう1件、この家に行ってみよう」、「施設に行く回数を増やそう」という判断ができるようになりました。面接の予定調整もしやすくなって、本当は早くやりたかった面接がずっと先になっていたようなことが、必要なタイミングで入れられるようになりました。「記録がまだできていないからSVへの相談や協議ができない」ということも減っています。定量化するのは難しい面もありますが、選べる活動の選択肢が増えたり、動きの自由度が上がったりしているのは確実にありますね。
セキュリティと即時共有——紙では実現できなかったこと

持ち出しやリアルタイム共有の面ではいかがですか?
佐藤係長:毎日起きるわけではないのですが、緊急対応時の効果は本当に大きいです。従来は現場で撮った写真を持ち帰り、現像して紙で見せるという運用でした。メールにデータを添付してはいけない、顔が写っているものは使えないといったルールがあり、技術的にはとっくにできるはずのことが、しがらみでできなかったんです。
AiCANなら安心してデータを送れる。現場の子どもの表情や様子、面接でどういう流れで子どもがその話をしたか。それが現場から本部にリアルタイムで共有できるというのは本当に大きい。「あざがあります、何センチです」と報告されてもピンと来ないんですよね。映像や写真を見ないとわからないことは多い。今まで世の中にある技術的にはできたのに、運用上の制約でできなかったことが、一気に突破できたのはよかったなと思います。
山本:資料の持ち運びについても変わりました。AiCANにPDFで資料を入れておけるので、紙の資料を持ち歩かなくてよくなったのは助かっています。
佐藤係長:今まではノートをカバンに入れて持ち歩いていました。それが、AiCANを使うことで一気にセキュリティを担保できるようになりました。
庁内の他のチャットツールとAiCANのチャット機能は、どう使い分けていますか?
山本:「研修を受けてください」とか「電話が来るので対応お願いします」といった庁内の事務連絡については基本的に別のチャットツールを使っています。AiCANのチャットは、ケースの詳細に関わるやりとりや、面接中の指示出しなど、支援の実務で使っています。
佐藤係長:今まさに動いているケースの場合は、離れた場所でそれぞれの対応をしている職員同士が情報を確実に共有しながら進めたり、聞き漏らしを防ぐことができます。今までだと、何か確認したいことがあるときは面接を中断して、電話をして、それが繋がらなかったりするということがあったりしたんです。それがないのは本当に大きいです。
山本:去年から2年連続で新卒の職員が入っているのですが、「AiCANネイティブ」なので違和感なく使っていて、チャットでのやりとりにも慣れています。私たちが触ったことのないような機能まで使いこなしていて、飲み込みが早いなと感じています。
佐藤係長:タブレットに親しんでいる世代だから、彼らにとってはノートみたいなものなんじゃないかと思っています。近いうちに、面談中にノートを持ってシャーペンを出す方が保護者に驚かれる時代が来るんじゃないでしょうか。
以上が前編です。
記録時間の短縮から始まった業務効率化が、訪問回数の増加や緊急対応時のリアルタイム共有、セキュリティの向上、さらには面接中のチャットを活用した人材育成まで、現場の働き方を大きく変えつつある港区の取り組みをご紹介しました。後編では、AiCANを活用した「支援の質の向上」というテーマで、さらに深いお話を伺います。