業務効率化から始めるDXーAiCAN導入に向けた試行錯誤【前編】
子ども虐待対応の通告数が年々増加し、児童相談所にはより迅速かつ的確な対応が求められています。そんな中、江戸川区児童相談所では、事務処理の効率化と現場の負担軽減を目的に、業務改善ツールAiCAN(アイキャン)の実証実験に取り組みました。
本稿では、導入を主導した援助課援助調整係・横山 智哉係長、菅谷拓紀氏、田村氏、神名氏に、ツール導入をめぐる背景や合意形成のプロセス、そして感じた課題感や工夫点について伺いました。
通告数の増加と人材育成 ―― 立ちはだかる開設初期の壁

今日はお時間をいただきありがとうございます。まず、実証実験に踏み切った背景からお伺いしたいのですが、どのような経緯があったのでしょうか?
横山係長:江戸川区では、令和2年4月に都内特別区で初めて児童相談所を開設しました。ただ、多くの実績を積んでいる都の児童相談所と比べると、職員の経験やスキルが十分ではない部分があるのでは、と当初から感じていました。また、実際に開設してみると、通告数や対応件数が非常に多く、記録や事務処理に忙殺されてしまい、保護者やお子さんとの面接や施設訪問に十分な時間を割けない、という課題も出てきました。
そこで、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用して業務の効率化を図れないかと検討した結果、まずは記録作成の効率化を最優先することに決めました。これが1つ目の理由です。
もう1つは、身体的虐待が疑われるような緊急性の高い対応の際の課題です。従来は「傷がある」と電話で報告していましたが、傷の程度を正確に伝えるのが難しく、判断に時間がかかることがありました。こちらについてもタブレットなどを使って、より迅速に正確な判断ができる体制を整えたい。そうした理由もあって、AiCANさんにお声かけをした、という経緯です。
既存の業務システムがある中で、新しいツールを追加する形で企画を進められたわけですが、そこに抵抗感はなかったのでしょうか?
菅谷:以前から現場の職員より「わざわざ職場に戻らずにどこかで記録を入力できたらいいのに」、「タブレットやパソコンを外に持ち出して記録が作れないか」といった話はずっと出ていたんです。でも、セキュリティ面などの制約があって実現できていませんでした。そんなとき、たまたま他の児童相談所でAiCANを導入しているという話を聞いて、「これは早めに導入しよう」という流れになりました。
実証実験をやろうという意思決定もスピーディだったんですね。とはいえ、忙しい現場を巻き込む形で新システムを追加導入するのに、最初は抵抗や慎重な意見もあったのではと想像しますが、合意形成や導入準備で苦労はありましたか?
横山係長:正直なところ、大きな抵抗感はなかったです。うちは若い職員が多く、日ごろからスマホやタブレットに慣れているので、現場での抵抗もほぼなかったですね。写真を撮るといったことにも抵抗感も少なかったです。AiCANさんにマニュアルを丁寧に作っていただいていたのもあり、すんなり導入できました。
「既存の業務システムがある中で、AiCANを導入すると二重管理になって大変では?」という声をよくいただくのですが、その点はどう判断されたのでしょうか?

菅谷:もちろん既存システムとの重複を懸念する声はありましたが、ただ、AiCANで作成した記録を区のシステムにすべて手打ち入力し直すわけじゃなく、コピー&ペーストでまとめて移行できるので、むしろ外で記録したものを所に戻ってからもう一度打ち込むより断然早いわけです。
田村:正しい情報をスムーズに入れられるので、現場としてはむしろメリットが大きかったと思います。
神名:導入時にAiCANさんがマニュアルを用意してくれていたので、現場も迷いなく始めやすかったです。
小さな取り組みを重ねて現場を巻き込む

実証実験の準備段階では、自治体によっては事務担当の方が孤軍奮闘してしまいがちですが、工夫された点はありますか?
菅谷:令和3年度に電話応対にAIを活用して効率化するシステムを入れる際にPoC(概念実証)をやっていたので、「現場をどう巻き込みながら新ツールを使ってもらうか」については実績があったんです。また、係長や私自身も、もともとケースワークの経験があるので、現場が何に困っているか、AiCANを導入することでどう業務が変わるのかがイメージしやすかった、というのも大きかったと思います。
現場の業務がわかる企画担当者がいるのは強みですね。とはいえ、実証実験に入ってすぐは現場の皆さんは多忙で、研修など参加しづらいこともあるかと思います。「どうせ期間限定だし…」と参加しない方が出てしまうこともあるのですが、江戸川区ではどうでしたか?
菅谷:正直、実証実験開始時には、研修の参加率が低い係もありました。でも、参加人数を係ごとに可視化して、「○○係は何人出席した」という情報を共有したりして、参加者を増やすような流れを作って行きました。
また、ベテラン職員が積極的にAiCANを使っているのを見つけたときに「さすがですね」と声をかけに行ったり、逆に20代の若手職員が紙で記録を取っているのを見つけたときは、「まだノート使ってるの?(笑)」と声をかけたりもしました。
少し強引に聞こえるかもしれませんが、実証期間が4ヶ月と短かったので、最初の段階でしっかり巻き込まないといけないなと。特に最初の1ヶ月が重要なのではと思っていました。
ここまでのお話を聞くと、とてもスムーズに実証に至ったように見えます。振り返ってみて、どんな点が導入のポイントだったと思っていますか?
菅谷:導入検討段階からちゃんと現場の職員を巻き込んで、合意形成して進めていくのが大事なんじゃないかと思っています。
以前、あるシステムを他自治体の児童相談所で導入することになったのですが、現場では「このシステムって使わなきゃいけないの?」という雰囲気になってしまって。そうなってしまうと、結局使われなくなってしまうんですよね。だからこそ、導入前の検討段階から現場を巻き込むのが重要だと思います。
もちろん、組織内に浸透するには時間がかかります。現場の職員がAiCANの使い勝手のよさに気づいて使い始めても、上長が実務で活用するまではもう少し時間がかかることもありました。
例えば、実証実験を開始してから一ヶ月後くらいに、通知が来たときにポンと音が鳴る機能を設定したんです。通知音が鳴るようになったことで、現場の職員から送られてきた新しい記録に気づけるようになったのですが、そのときに「あ、これは便利だ」と気づいてもらえたのではないかと思っています。ちょっとしたことですが、改善をしながら、そうした気づきを作っていくことが大事だと思っています。
以上が前編です。
企画・推進サイドの視点から、実証実験へ至るまでの背景や合意形成の秘訣を探りました。
後編では実際にAiCANを使った現場の職員の生の声をお届けし、現場がどのように業務改善を実感したのかをご紹介します。
前編では、江戸川区児童相談所でAiCANサービス導入を企画・推進した職員の皆さんの声から、導入背景や合意形成のプロセスをご紹介しました。後編では、実際に子どもや保護者に対応する現場の職員(ケースワーカー)お二人に、AiCANサービスの第一印象や実際に使ってどのように業務が変化したのかについて語っていただきました。
「ある」のと「ない」ので全然違う

今日はお忙しい中お時間をいただきありがとうございます。まずは実証実験を終えての率直な印象を教えてください。AiCANを4か月ほど使ってみて、今どんな気持ちですか?
ケースワーカーA:シンプルに「AiCANがあるとないでは全然違う」と思っています。実証実験が終わって、今はもう手元にないのが残念です。
どんな場面でAiCANを使ったときに違いを感じましたか?
ケースワーカーA:主に、2つの場面での使い方が有効だなと感じました。
1つめは初期対応です。学校などで子どもと面接をして、職権保護が必要かどうか判断するケースがあるんですが、AiCANを使っているときは、その場で記録を打ち込み、チャット機能などで所の上司や他の担当に共有していました。
電話だと口頭で必死に説明しても、微妙なニュアンスが伝わらないことも多いんです。でも、チャットを使ってテキストで共有できると、判断材料が一気に増えるんです。これが現場としてはとても助かりました。
2つめは記録作業です。タブレットを使って外出先で記録作業を完了できるので、所に戻ってPC入力をする手間がぐっと減ったんです。また、記録内容を所内ですぐに共有できるのも助かりました。記録が終わって保存すると通知が飛ぶので、上司に進捗を把握してもらいやすくなったように感じました。職員が使うのに慣れていくと、「AiCANで送っておいて」とよく言われるようになりました。
ケースワーカーB:写真を共有できる機能もとてもよかったです。
「児童にあざがある」と学校から連絡を受けて訪問したことがあったんですが、現場でタブレットを使って写真を撮り、そのままAiCAN上で上司に送り、その場で指示を受けることができました。文章だと、どの程度のあざなのか伝えづらいのですが、画像なら一目瞭然です。対応方針について、上司にすぐ判断してもらえるので、事務所に戻らずに次の動きに移ることができました。早さが重要な初動時に、こうした対応ができるのはありがたかったです。
また、リアルタイムでチャットで指示を仰ぐことで、面談時の聞き取り漏れが減ったのもよかったです。その場で上司に相談できるので、現場ですぐに追加の質問ができました。これまでは一度職場に電話したり、戻って協議したりと時間がかかっていたので、AiCAN導入で段取りが一変しました。
タブレットだからこそできることがたくさんある

記録業務に関して、タブレットと紙を比べてみて、どのように感じていますか?
ケースワーカーA:私は紙に書く習慣がずっとあったので、最初は違和感がありました。でも使ってみると、出先でどんどん打ち込めるのが本当に便利でした。施設訪問で子どもに会いに行ったりすると、30分くらい待ち時間が発生したりするんです。その間に記録を片づけたり、面接が終わった後にすぐまとめたりできるので、作業時間が削減できました。
ノートパソコンを持ち歩くよりも、断然作業がやりやすかったです。学校や出先で、長時間作業するのにノートパソコンを開いてカタカタ打つのは目立ちますが、タブレットだと違和感なく作業ができました。
保護者の方からは「役所でも、そんな先進的なことをしてるんですね」と言われたことがあります。企業で働いているような方には、ノートを広げて書くより、タブレットで入力している方が自然に見えるようです。
ケースワーカーB:対面でノートに記録を取っていると、気をつけないと相手がこちらに目を向けたときに、記載している内容が見えてしまうんです。タブレットなら画面をすぐ閉じればいいので、対面の場でも気にせず使えるのがいいなと思いました。
4か月の実証期間の中で、最初は「紙がいい」と言っていた方が途中からAiCANに乗り換えたケースもあったと伺いました。なにが転機になったのでしょうか?
ケースワーカーB:最初は「新しいツールを今から覚えるのは面倒」という気持ちがあったと思います。実は、私自身も正直そう思っていました。でも、実際にAiCANを使ってみると、「紙に書く。その後でシステムに入力する」ということが二度手間だということに気づいて、「あれ? こっちのほうが早いじゃん」となりました。そこからは「AiCANを使いたい」と自然に思うようになりました。
ケースワーカーA:私は、噂で「業務がかなり楽になる」と聞いていて、「どんなシステムだろう?」と思っていました。実際に使ってみたら噂通りで、「これはいい」と思いました。ただ、年齢的にデジタル機器に馴染みのない職員もいたので、最初は使う人が限られていたように思います。便利だということが口コミで広まっていって、使う人がどんどん増えていった印象です。
AiCANロスと今後の期待

実証期間が終わった後、職員の皆さんから「続けられないの?」という声があったと聞きました。実際どのようなお声がありましたか?
ケースワーカーB:「AiCANロスです」という冗談交じりの声もありました(笑)。実際、AiCANを使うことに慣れてしまうと、もう紙やノートPCだけの業務には戻りたくないなとは思います。やはり現場で記録を完了できなくなるのは痛い。正式導入になると、本当に助かります。
改めて、正式な導入に向けた要望があれば、ぜひ教えてください
ケースワーカーA:実証実験中に使えていた機能はそのまま維持してほしいです。その上で、今後は一時保護などの説明資料をタブレットに入れて、保護者や子どもに見てもらうといった新しい使い方もできればいいなと思っています。
ケースワーカーB:私も全く同じで、実証実験中に使えていた機能が継続して使えるといいなと。あとは導入前に「どういうメリットがあるのか」を改めて丁寧に説明してもらえるとありがたいです。紙には紙の良さもあるので、そのあたりもクリアにできると、もっと導入がスムーズになるのではと思っています。
実際にAiCANを使った現場職員の声からは、紙ベースやPC入力では難しかった「即時共有」と「外出先での記録業務の完結」が、業務効率を大幅に向上させることがわかります。とりわけ緊急度の高いケースでは、写真やテキストチャットのリアルタイム共有が意思決定を加速し、子どもを守るための初期対応に活用されていることが印象的でした。
こうした事例は、児童相談所のDXを検討する自治体にとって大きなヒントになると思っています。現場の声を最初から丁寧に拾いながら、関係者の合意形成を進めて、一歩ずつDXを実現していく──AiCANは、これからもそうした取り組みを自治体と共に進めてまいります。
自治体業務におけるデジタル化は近年急速に進んでいます。しかし、現場の声に即したシステム導入は容易ではありません。
世田谷区児童相談所では、令和2年の開設以降、職員の業務負荷の削減、特に記録作成業務の効率化が課題となっており、その状況を変えるために選ばれたのがAiCANサービスでした。
世田谷区でなぜAiCANサービスを導入したのか、予算が限られている中でなぜ導入できたのか、どのようなステップで導入を進めて行ったのか。今回、AiCANサービスの担当課である子ども・若者部児童相談支援課の山口皓輔係長と山口純平氏にインタビューをさせていただきました。

記録作成業務の重荷をどう減らすか
それぞれのお仕事や、AiCANサービスとの関わりについて教えてください。
山口(純):世田谷区の子ども若者部児童相談支援課に所属しています。現在の部署では、AiCANサービスを含むシステム全般の業務に加え、議会対応や調査対応等庶務業務も担当しています。また、自身の業務に限った話ではありませんが、課全体として児童相談所や子ども家庭支援センターの橋渡し役も務めています。
山口係長:私も山口(純)と同じ部署に所属しています。今年4月からこの部署に異動し、AiCANサービスの導入には遅れて関わり始めました。普段は児童相談所と子ども家庭支援センターの調整業務を主に行っています。
世田谷区児童相談支援課の役割について教えていただけますか?
山口(純):私たちの課では、児童相談所と子ども家庭支援センターの間をつなぎ、行政全体として一貫した支援を行う役割を担っています。その中で、私はシステムの導入や業務改善の企画立案に携わっています。
現場での主な課題はどのようなものだったのでしょうか?
山口(純):最大の課題は、記録作成業務の負担です。世田谷区の児童相談所には約90名の職員がいるのですが、その中でケースワーカーが相談者の面接や調査を実施した後にその記録を作成する、という業務があります。この業務に非常に時間がかかっていました。
どのくらいの時間が記録作成に費やされていたのですか?
山口(純):平均して1件あたり2時間ほどです。1日に数件のケースを担当する場合、それだけで1日の半分以上を記録作成に費やしてしまうこともありました。また、既存システムは庁内ネットワークに接続されたパソコンからアクセスし操作しなくてはならないことから、外出先から所内に戻ってからでないと記録が作成できなかったため、面接や調査を担当することの多い若手職員には大きな負荷となっていました。
効果検証のために実証実験を開始

AiCANサービスに興味を持たれたのはどのような経緯からですか
山口(純):令和4年度末に、他の自治体が同システムを使って記録作成の効率化に成功しているという話を聞きました。その話を受けて、我々の課題解決にも役立つのではと考え、導入の可能性を探ることになりました。
実際に導入に向けた検討を始めた際、どのような期待を抱いていましたか?
山口(純):一番の期待は、記録作成時間の削減です。また、現場でのリアルタイムな指示出しや、若手職員が自信を持って対応できる環境づくりにも役立つと考えました。
世田谷区ではまず実証実験からスタートされましたが、どのように進められたのでしょうか?
山口(純):実証実験前は、そもそもどのように活用できるのか未知数の部分が多かったです。そのため、まずは実証実験を通して、期待する効果が出るかを検証することにしました。児童相談所では、区内を5つの地域に分けて各地域を担当する班制を敷いておりますが、AiCANサービスを使用する班と使用しない班を作って、業務効率化につながるかを比較検証する、という形で実証実験を開始することにしました。
現場の職員の方にはどのように説明されたのですか?
山口(純):事前に説明会や体験操作会を実施して職員にイメージを掴んでもらいました。実際に操作を体験してもらうことができ、『使いやすい』という声が多く、前向きに取り組んでいただくことができました。実際にAiCANサービスを利用するのは児童相談所の職員となるため、所内の協力も多くいただきながら調整をしていました。
実証実験に参加された職員の反応はいかがでしたか?
山口(純):非常にポジティブでした。『調査後すぐに記録が終わるなんて夢のようだ』という声もありました。特に、記録作成業務に追われていた若手職員にとっては、精神的な負担が大きく軽減されたようです。実証実験開始後3か月の時点で、実験に参加している職員へアンケート調査を実施したところ、記録作成時間と超過勤務時間がそれぞれ約50%減った、という成果を出すことができました。
また、チャット機能の活用により、上司に相談しながら面談を進められる点も好評でした。面談中に気になることがあった場合に、面談を一時中断して電話で上司に確認をしていたのですが、AiCANサービス導入後は、面談中にチャット機能を使うことでリアルタイムに上司へ確認をとることができ、面談を中断せずに進められるようになりました。
加えて、調査後の記録作成が大幅にスピードアップしたことで、今まで以上にケースワークに充てることのできる時間が確保できました。


他の自治体では、実証実験も含め、導入に向けた一歩を踏み出すのに苦労しているところも多いと思っています。世田谷区ではどのようにして進めてこられたのでしょうか?
山口係長:ちょうどコロナ禍で区役所全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)の気運が高まっていたことが後押しとなりました。財政面でも、そうした大きな流れにうまく乗ることができたので、予算の調整をうまく進めることができました。
また、実証実験を通じて効果を確認してから導入を検討する、という進め方も良かったと思っています。特に、今回はAiCANさんと区で費用が発生しない形で実証実験を実施する、という合意があったので、実証実験のスタートについてもハードルのようなものはほとんどありませんでした。
本導入に向けてどのような準備を進められましたか?
山口(純):実証実験で得られたデータを基に、効果を財政課や上層部に説明しました。ヒアリングやアンケートも何度も実施していたこともあり、導入に向けて前向きに進めていこうという流れを作ることができました。
後編では、実証実験から本導入に向けて、どのような準備を進めてきたのか、どのような課題があったのかについてお伝えします。
自治体業務におけるデジタル化の波が加速する中、世田谷区はAiCANサービスシステムを導入し、記録作成業務を大幅に効率化することに成功しました。
前編に続き、後編では、実証実験から本導入に至るプロセスで直面した課題や、それを乗り越えた具体的な手法を掘り下げます。また、システム導入後に現場で起きた変化や成果をデータとともに検証し、さらなる展望について詳しく探ります。

導入の壁となったのは調達とセキュリティ
実証実験から本導入に移る際、どのような壁がありましたか?
山口(純)(児童相談支援課):大きく分けて2つの課題がありました。1つはタブレット端末の調達です。もう1つは情報セキュリティ基準を満たすことでした。
タブレット端末の調達について、特に難しかった点は何ですか?
山口(純):AiCANサービスを利用するための端末は特定の仕様を満たす必要があるのですが(注:2025年1月時点でiPad端末:SIMフリーのWi-Fi+cellularモデル等が必要)、端末を調達するまでに必要なプロセスを確認し、「何を」「どこまで」「いつまでに」準備しなくてはならないか整理するのに時間がかかりました。併せて、庁内の契約手順に則ってどのように事務を進めていくか確認調整することも労力を使いました。また、条件を満たす端末を必要数確保するための予算確保の段階で、調達するルートや端末をリースするか購入するか比較検討が求められたのも難航したポイントでした。
セキュリティ対応に関しては、どのように進めましたか?
山口(純):個人情報を取り扱う端末を外出先で使うという運用を想定していたので、個人情報の漏洩リスクにどう対処するか、庁内の情報政策部門と何度も協議を重ねました。
現在は、多要素認証を導入して端末を起動するときとAiCANアプリにログインするとき、いずれの場合にもパスワード等が必要となるようにしています。また、アプリ画面を開いているところを外から見ても個人が特定されないように、個人名の一部をマスキング処理するような機能を追加していただきました。こうした改善策を積み上げていき、情報政策部門の理解を得ていきました。
情報部門の信頼を得るために工夫した点はありますか?
山口(純):提案段階から情報政策部門の担当職員も巻き込み、課題を共有しながら進めたことが信頼につながったと思います。また、リスク低減のためにシステムの内容を改善できないか、というこちらの提案に対して、AiCANの担当者の方が前向きに受け止め、他の自治体においても有益な改善であれば機能追加を行うなど、一つ一つ対応して頂けたのが大変ありがたかったです。
待望の全面導入がうまくいった理由

全面導入が始まった際、現場ではどのような反応がありましたか?
山口(純):もともと令和6年7月から導入開始を予定していたのですが、調達などの都合で導入が10月に後ろ倒しになったのですが、そのときは現場には非常に残念がられていました。実証実験参加者からは、実験終了時に「名残惜しい」という声も聞いていました。
という状況だったので、10月の全面導入が始まった際には「待ってました」というような雰囲気があり、反応は非常に良かったです。特に実証実験を経験していた班の職員たちは「これでようやく業務がスムーズになる」と喜んでいました。自分もその様子を見て、導入してよかったなということを改めて実感することができました。
全面導入時にトラブルのようなものはありましたか?
山口(純):特にトラブルのようなことは起きませんでした。新しいことを始めるので、最初から全てが見えているわけではなく、運用しながら細かい部分を調整していくことは必要とは思っていたのですが、前提となる考え方については関係部署と事前に密に調整していたこともあり、スムーズに導入できたと思っています。
改めて導入の進め方を振り返ってみて、何が重要だったと思いますか?
山口(純):AiCANさんが開催してくださった他自治体との合同意見交換会に我々企画調整担当職員や現場となる児童相談所職員も参加させていただいたのですが、同じ課題を抱える自治体の方々と直接お話しする機会が得られたのは本当に大きかったです。例えば、導入のプロセスで出てくる課題やその解決策についても、他の自治体の成功例や工夫を聞くことで「自分たちでもこうできるんじゃないか」というヒントを得られました。
また、補助金の申請に関しても連携の効果を強く感じました。例えば、今回活用したデジタル田園都市国家構想交付金の補助金の申請を進める際に、すでに採択されている他の自治体の申請事例を共有していただいたおかげで、スムーズに進められました。こういった横の繋がりがなければ、正直、申請はもっと難航していたと思います。
既存システムとの連携が今後の課題
AiCANサービスを導入後、現在何か課題に感じていることはありますか?
山口(純):既存の業務システムとAiCANサービスの連携については何か改善できることはないだろうかと個人的には思っています。既存システムとAiCANサービスは現状完全に独立した形で運用しているので、双方で情報を連携させようとするとアナログな作業が必要になります。
具体的には、現在「AiCANサービスで入力したデータをCSVファイルとして出力し、それを既存システムにコピ―アンドペーストで貼付する」という作業を人力でやっています。複雑な作業ではないのですが、一定の負担ではあるので、こうした部分も何らかの形で改善していけるといいなと思っています。


既存システムにコピーアンドペーストする時間を含んでも業務効率化が大きく進むということで導入していただきましたが、AiCANサービス側でも課題として認識している点なので、今後のアップデートの中で何か対応していければと思っています。
(参考記事「令和5年度実証実験結果レポート―記録時間を約6割削減―」
今回は、お忙しい中インタビューにご協力いただき、ありがとうございました!
ありがとうございました!