なぜAiCANの総合リスクの値は高くなるのか?
2020/07/07

「まじか、めっちゃ高い」
はじめてAiCANを使って、タブレットでリスクアセスメントシートに入力してもらって表示される「総合リスク」の高さにびっくりする職員様がたくさんいらっしゃいます。
このリスクの数値は、虐待の重篤度の判定に基づく子どもの一時保護の必要性の意味を持つため、職員様は「そんなリスク高いの?全部保護じゃん」という気持ちになると思われます。
しかし、緊急受理会議でのリスクアセスメント判定で高いリスクが表示されやすいのはある意味当然なのです。大切なのはその数値をどう解釈し、その後でどう対応していただくかです。
そこで今回は、AiCANに表示される総合リスクの値がどのような仕組みで変化するのか、基本的な考え方を説明します。

リスクとは、「将来において何か悪い事象が起こる可能性」を意味する言葉です。悪い事象とは、例えば子ども虐待による死亡事例や重篤事例が起きてしまうことが挙げられます。
では、可能性はどのように決まるのでしょうか?
子ども虐待は、様々なリスク要因(虐待に至るおそれのある要因)が絡み合って起こるものですので、リスクアセスメント指標を用いて、リスク要因の早期の把握、関係機関での問題点の共通理解、具体的な支援内容に関する認識共有を、客観的な情報を元に行う必要があります。
このような考え方や対応プロセスを詳しく知りたい方は、厚生労働省の「子ども虐待対応の手引き 」の「 第2章 発生予防」をご覧ください。
リスクアセスメント指標を導入してリスクアセスメントを実施していこうとするときに課題となる点は、リスクアセスメント指標にはたくさんの項目があるため、紙の調査票に記入するのに手間がかかること、そして様々なリスク要因が絡み合う高度な判断を的確に素早く下すには経験やスキルが必要になることです。
そこでAiCANでは、リスクアセスメント指標をタブレットから入力できるようにし、入力された情報が即座に関係者と共有できるようにしています。最初は業務でタブレットと使うことに積極的ではなかった中堅職員様が、使い方を教わって慣れてきて「最初私なんかにできるかなと思って嫌だったのですが、慣れると操作も楽ですね」と言って、どんどん入力いただけるようになるのを目の当たりにしました。不慣れなのは最初だけ。児童相談業務の現場でITツールを活用いただくことで、業務が楽になっていくということを確信しました。

また、AiCANでは、入力したリスクアセスメント指標の値から、虐待の重篤度を算定し、「総合リスク」として表示する仕組みになっています。算定において、様々なリスク要因が絡み合うことからAIを利用しているのが特徴です。
(AIをどのように活用しているかは別の機会に説明したいと思います。)
「総合リスク」の値は、リスクアセスメント指標の値の組み合わせで決まってきますが、緊急受理会議のような初期段階では、リスクアセスメント指標の値はほとんど決まっていません。すると、「総合リスク」の値は高くなってしまいます。これは、リスク判定の考え方としては自然なことです。
リスクアセスメント指標は、おおまかには「はい」「いいえ」「不明」の3段階となっています。リスクとは「将来において何か悪い事象が起こる可能性」ですので、不確定な状態ではリスクは高いと判定されるのが一般的ということです。
例えば「子どもが保護を訴えているか」という指標に対して、「はい」であればリスクは高く「いいえ」であれば低い可能性が高くなると考えられます。まだ未確認であれば「不明」を選択することになりますが、このような不明な状態は「子どもが保護を訴えるかもしれない」という悪い方に倒して「リスクが高い可能性がある」と判定されるということです。
このようなリスク判定の考え方は、子ども虐待のリスクアセスメントに限らない、一般的なものです。
例えば、ITプロジェクトのリスク管理では、プロジェクト開始当初に「現行機能の調査・確認が不足している」ことからスケジュール遅延のリスクが高いと判定されるが、十分な調査・確認を実施する等の手を打つことで、プロジェクトの進行に伴いリスクを下げていく管理が行われます。打ち手によって不明な点を明らかにするなどしてリスクの顕在化(悪い事象が起こる可能性)を下げていくという管理で、プロジェクトが進行していてもリスクが下がっていかないならば管理に問題があると考えて是正を図っていくことなります。
このようなリスク判定の考え方を理解すると、家庭訪問もしていない不明な点が多い状態で、AiCANがリスクが高いと判断する理由をご理解いただけるかと思います。
AiCANがリスクという数値で表現していることは、緊急受理会議時や家庭訪問の前後で所長や課長が「あれ聞いた?」「この点確認した?」「家族関係はどうなってるの?」と「不明」を減らすためのご指導に通じるものがあるかもしれません。
実際に、職員様の入力を補助していき「いいえ」と「不明」で総合リスクが変わることを伝えると、「ここの不明を優先的に調査して、いいえに確定できれば、早くリスクを下げれるということですか!なるほど」とおっしゃっていただけるようになります。このようなITツールの性格を理解いただき、体感していただくことは、現場でAiCANのようなITツールが定着し、使っていただくために大切なプロセスであると感じました。
そして、大切なのはその数値をどう解釈し、その後でどう対応していただくかです。
不明な点が多いためリスクが高いと判定されているならば、どうやって不明な点をつぶしていくのか、どうやって効率的に確認していくのかの検討が重要となります。また、確定した項目が多くなっているのにリスクが下がらない案件は、注意が必要なのではないかと考えて対応を検討していただくことが必要となります。
このような複雑な判断は、これまでは経験を積み上げることで職員様ひとりひとりが養ってきたスキルでした。それをAiCANが数値として表現することで、関係機関での問題点の共通理解、重症度の判断や具体的な支援内容を認識を客観的に行うことの支援になるのです。
そしてさらに重要なことは、AiCANが表示する数値に対して「本当にこの数値は合っているのか?」ということを考えて議論を深めていただくことです。
子ども虐待の対応で難しいのは、例えば「子どもが保護を訴えているか」に対して、子ども本人の回答が「いいえ」であったとしても、現場では「本当は保護したほうがよいのではないか」と考えられるケースがあるということです。
AiCANの算定は過去の実績に基づくものですが、平均的な答えです。また、現場で職員様が五感で集める情報や違和感等をすべて数値化して入力することはできません。AiCANに表示される「総合リスク」は、参考値であって職員様の判断の質の向上や効率化に役立てていただくためのツールであるということです。
AiCANに表示される「総合リスク」等の数値を、調査結果や見立て、今後の対応にどう取り込んでいくのかについては、これからさらに議論を深めなければならない課題です。